「哲椀」レコメンドリスト 第10椀


ごとうにんシアターポッドキャスト「哲学のお椀」(哲腕)で触れた作品たち。

第10椀「読書」について語る。(ご視聴はこちらから)で紹介した作品を掲載します。

書き足りないこと(というか、殆どかけてないこと)も多く、ちょくちょくメンテナンスをして行きたい。けれど、いったん掲載。

・三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

「哲椀」で触れたので、何となく気になり、(更に、カミさんも「それ、少し気になっている」と言うので)手に取った一冊。想定を超えて興味深く読んだ。

「読書」というテーマを依り代として紐解かれる、近・現代日本の労働史。

著者はひとつのことに、人生の大半(週5日、毎日8時間とか)をフルコミットする「全身全霊」のあり方に警鐘を鳴らし、「半身」のあり方を推奨する。

「生き甲斐」「自分らしさ」を(仕事だったり)特定の何かだけに求める必要は、本来、全くない。家事でも、ボランティアでも、育児でも、介護でも、娯楽でも何でも良いのだ。なのだが、社会が、そして自分たち自身が、(仕事などの)何かひとつのことへの強いコミットを「自明のもの」として課している。さらに自分たちの価値観が社会に反映され続ける。ループ。この「くびき」を如何に解いて行くか。一人一人が、まずは、そういう状況であることに気づくことから、なのだろう。「自己実現」って、そもそも何ぞ?と。

たまたま併読している、柿内正午『会社員の哲学』とリンクする内容。


・辻山良雄『しぶとい十人の本屋』(朝日出版社)

東京杉並区、荻窪の書店「Title」店主、辻山良雄さんによる、アナログ本というメディアをしぶとく商い続ける人々の想いを巡る旅と会話の記録。

「オルタナティブ」、「カウンター」という表現がしばしば出てくる。今の世の中で、ともすると蔑ろにされそうなコトを、流れに抗っても、しっかりと守り続ける、「ゲートキーパー」的な矜持と世界観。

「本好きの、本屋による、万人のための書物」の中の力強いひとつだと思う。


・椎名誠『わしらは怪しい探険隊』(角川文庫)

小学校の頃、椎名誠と息子「岳」との交流を書いた『岳物語』を読んで、その文体に、すでに魅了されていたのだと思む。

以降、中学に入り、彼の作品を夢中で読んだ。中でも、この「怪しい探検隊」シリーズは貪るように読んだ。「アウトドア」なんていう言葉が浸透していなかった時代における、椎名誠と仲間たちの抱腹絶倒の野営行脚。

少年の頃の私に、「テントを担いで、兎に角どこかへ出かけたいのだ!!」という衝動に火をつけてしまった狂おしいシリーズ。その1冊目。


・沢木耕太郎『深夜特急』(新潮文庫)

高校生の頃に出会った、魔性の書物。香港から渡ったユーラシア大陸を、乗り合いバスで西進する若き日の沢木耕太郎の物語。この本を読んで、人生の舵を(良くも悪くも)あらぬ方向に切った若者達が一体、どれくらいいるのだろうか。

読み進めるうちに、魂の震えは「テントを担いで、兎に角どこかへ出かけたいのだ!!」から「激安チケットを買って、カメラを持って、兎に角アジアの国を歩きたいのだ!!」に変質していた。

その後、主にドキュメンタリーを中心とする沢木作品を手に取るようになったきっかけでもある。何を書いても「読ませる」作家だと思う。

※ちなみに、活字以外では、大沢たかおが主演のドキュメンタリードラマ「劇的紀行 深夜特急」シリーズもお勧め。井上陽水の主題歌『積み荷のない船』も良かったし、松嶋菜々子が出演するという演出も面白かった。


・ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(新潮文庫)

「文庫化したら世界が滅びる!?」と囁かれていた作品。2024年、ついに文庫化。で、思わず釣られ読み。

久しぶりに物語を読んだのだけど、コレは確かに面白かった。登場人物の多さ、名前のややこしさ(コレは意図的なものなのだろうが)に翻弄されつつも、一気読みした。

「人間」というものの「存在」の哀しさ、軽薄さ、滑稽さ、信念、愛憎などを通じて、なによりその「孤独」が確かにくっきりと記されていると思う。

また、一族とそれに関わる人々、それぞれの個性が浮き立っており、確かに「多声的」(ポリフォニック)という表現は言い得て妙かと。

現実と非現実の融合=「マジック・レアリズム」。なるほど、よくよく思えば、村上春樹も似ているところがあるな、と思った。

南米文学、でいうとボルヘスも読んでみたい、というか、手に取ってみている。(『伝奇集』と『夢の本』)


・中村隆之『第二世界のカルトグラフィ』(共和国)

早稲田大学法学学術院教員で、著者による、クレオール文学などなどにまつわる随想。カリブ海のフランス語文学等の研究者の視点から、フランス統治の影響を色濃く残す、カリブ諸国における文化についての洞察に触れられる。エドゥアール・グリッサンなど、またぞろ読みたい本があれこれ出て来てしまう。

先に触れた、ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』の舞台のコロンビアはスペイン統治下であった。(統治国の違いも含め)植民地政策による影響や、生活する人々の多様性など、ラテンアメリカにおける文化をもっと知りたいと思う。


・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(新潮文庫 など)

村上春樹曰く、「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」と言われたら、スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』、レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』と並んで挙げるのが、この『カラマーゾフの兄弟』、だそう。

新潮文庫からは原卓也さんの訳で上中下巻の3分冊。各社、訳者の違いなどがあり、好みが別れるかどうか。読み比べてないので分からない。

読み進めるに従い、徐々に展開の加速度と面白さが増すスルメのような作品。そして、登場人物、ひとりひとりが「立っている」ということで、確かに多声的(ポリフォニック)な作品でもあると思う。

これだけ「長く」そして「重たい」作品が読み継がれているのは、宗教、恋愛、金銭、家族、差別、いじめ、等など広範かつ重たい問題をテーマとして扱いつつも、推理小説調の進展を交えて強弱のテンポを付けて読ませる作品に仕上がっているからだろう。

※2007年に読み終えた時の記録によると、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に酷似した挿話があって、キリスト教徒と仏教、異なる背景の繋がりについて、思うことがあったらしいが、該当箇所の記憶が全くない。。。



・フランツ・カフカ『カフカの日記 新版―1910-1923』(みすず書房)

カフカの綴った日記。

読み途中。

今後、更新予定。


・フランツ・カフカ『決定版カフカ短編集』(新潮文庫)

最近新潮文庫から発売のカフカの短編集。

読み途中。

本編でたなが触れていた『断食芸人』収録。

今後、更新予定。


フランツ・カフカ『決定版カフカ断片集』(新潮文庫)

最近新潮文庫から発売のカフカの断片集。

苦悩から絞り出された様な短い文章。奇妙な話だが、そこに小さな美しさの欠片を感じる。

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もう夕方だった。
涼しい風が吹いてきた。
その涼しさがさわやかでもあり、もうそんな風の吹く時間かと疲れも感じた。

わたしたちは古い塔のそばのベンチに腰をおろした。 「すべて無駄だった」とあなたは言った。「でも、もう終わった。ほっと息をつくときだ。それにふさわしい場所だ」

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さらに、あとがきには、読書に関する言及も。

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自分の城の中にある、自分でもまだ知らない広間。
それを開く鍵のような働きが、多くの本にはある。

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良い。カフカ、良い。


・小山さんノートワークショップ (編)『小山さんノート』(エトセトラブックス)

「小山さん」と呼ばれた、ひとりのホームレス女性が書き残した膨大な日記。有志によって書き起こしが為され、その一部が編纂され、出版されたもの。

他人の綴る日々の記録を読むという行為は、時空と人格を越えて、その場・その時・その人に、ほんの一部かもしれないけど、自分の一部をシンクロさせる行為だ。やはり、読んでいてしんどさを感じる。

それにしても、極貧の厳しい生活において、継続された「書くこと」。彼女は、ひたすら書き続けていた。

坂口恭平が『生きのびるための事務』で触れていて、そして実践した継続と、小山さんのやっていた継続、何が違ったのだろうか。「生きるため」に為されたこと、という観点で、全然違うのかもしれないし、でも、本質的にはあまり違わないのかもしれない。

色々と考えさせられる。


【書籍以外のアレコレ】

・テレビ番組:『ブラタモリ』(NHK)

2024年に惜しまれつつ、番組終了した、NHKのご長寿番組『ブラタモリ』。

全国津々浦々の土地の持つ、歴史・文化・工芸・地質・環境・食などなどをアレコレを深掘り、その魅力をタモさんと再発見して行く面白番組。

録画で撮りためたものを、慈しむように、少しずつ、家族で観て楽しんでおります。

『哲椀』第10椀で触れていた「飛鳥」については、2020年4月18日初回放送の#162「奈良・飛鳥〜なぜ飛鳥は日本の国の礎となったのか?〜」より。


・音楽:サザンオールスターズ『世に万葉の花が咲くなり』(タイシタレーベル)

1992年リリース。

たなが人生で最初に買ったアルバムとして挙げていた一枚。

青春のサザンオールスターズ。

「せつない胸に風が吹いてた」「君だけに夢をもう一度」あたりの疾走感と切なさ、ない交ぜの曲が特に好きだけど、「HAIR」とか「亀が泳ぐ街」あたりのシュールさも素敵。

他にも名曲だらけだし、言及し始めると、想いが溢れて、全曲コメントすることになりそうで、「大体、全部好き」というボキャ貧なコメントしか出てこない。

今後、更新なるか。ならずか。


・音楽:徳永英明『Nostalgia』(アポロン)

1993年リリース。

たなが人生で最初に買ったアルバムとして挙げていたもう一枚。

知っている曲が、、、ない、、、?

(たなに解説を願いしよう)

今後、更新予定?


・音楽:リンドバーグ『リンドバーグⅣ』(JAPAN RECORDS)

1991年リリース。

なるが人生で最初に買ったアルバムとして挙げていた一枚。

1曲目収録の「BELIEVE IN LOVE」が一番有名だと思うけれども、何よりも14曲目の「SUNSETBLUE」が大好きだった。今でも好き。歌詞はこんな感じ。

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夕暮まで二人で遊んだ空き地に
去年の秋きれいな白いビルが建った
二人で未来夢見た空き地はもうないけど
あの時と同じ夕陽白いビルを染める


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変わって行く街並み。止まらない月日の流れと、追いつけていない焦燥や、後ろへ流れ去って行くアレコレに対する寂寥感。
何だか青臭かったことしか思い出せない。


・音楽:Sergio Mendes『Sergio Mendes Songs Selected By Shinichi Osawa』(ユニバーサルミュージック)

2002年リリース。

2024年9月5日に死去した。ボサノバの巨匠、セルジオメンデス。

彼の残した膨大なアルバムの中から、たなが良く聴いていたという一枚。MONDO GROSSOの大沢伸一全面監修のセルジオ・メンデスのコンピレーション盤。

最後の方に収録されている「Tristeza」は大好きな一曲。スペイン語で「悲しみ」という意味だけど、歌詞は「悲しみよさようなら(goodbye sadness)」という明るい一曲。

ボサノバは良い。


・音楽:Arto Lindsay『Cuidado Madame』(Northern Spy)

2017年リリース。

哲椀では触れなかったけど、たなが「ブラジル音楽にメチャクチャ影響を受けた」という、アメリカ出身のミュージシャン、アート・リンゼイ。

以下、たな談ー

アルバムだと、パッと思い出すのは2017年に出た『Cuidado Madame(邦題:ケアフル・マダム)』
同年渋谷WWW Xでやったライブにも行った。
知ったきっかけは忘れちゃったなあ。自分の「南米アンテナ」に引っかかった。

2002年リリースのアルバム『Invoke』に収録されている1曲『Illuminated』もおすすめ。


・雑誌:『STUDIO VOICE』(INFASパブリケーションズ)

2009年に廃刊になった月刊カルチャー雑誌。

廃刊になっても、WEB版では運営・発信を続けている。すごい。
https://www.studiovoice.jp/

たなが第10椀で触れていたのは 1997年4月のVol 256 「キューバ 革命とエロス|まろやかな混血文化は我々に何を問いかけるのか」という特集。


・演劇:たなが語っていた「不条理演劇」たち

たなが哲椀で挙げている不条理演劇はこのあたりらしい。

・ハロルド・ピンター全集(全3巻)

・新訳ベケット戯曲全集1[ゴドーを待ちながら/エンドゲーム]

・金襴緞子の帯しめながら―別役実戯曲集


【第10椀で触れたその他諸々たち】

・ゲーム:任天堂『オイルパニック』(ゲームウォッチ)
・漫画:井上雄彦『SLAM DUNK(スラムダンク)』
・漫画:手塚作品群
・アニメ:ジブリ作品群


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