
ごとうにんシアターポッドキャスト「哲学のお椀」(哲腕)で触れたり触れなかったりした作品たち。
第19・20椀 「「構造」の哲学」、「続 「構造」の哲学」で紹介した作品を掲載します。
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第19椀 「構造」の哲学
第20椀 続 「構造」の哲学
・内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)

「構造の哲学」と一見、関連がありそうな雰囲気のある「構造主義」の哲学。
歴史や、文化、言語など、世の中の裏側にある、目に見えない「構造」から、世の普遍性を解き明かそうとする、その哲学には、ミッシェル=フーコー、ロラン=バルト、レヴィ=ストロース、ジャック=ラカンなどなど、錚々たる哲学者が名を連ねる。
構造主義は現代思想の代表みたいにいわれるけれど、一体どんな思想なんだろう。そう思って解説書を手にとれば、そこには超難解な言い回しや論理の山。ああ、やっぱり現代思想は難しい……。そんな挫折を味わった方はぜひ本書を。フーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンといった構造主義の主唱者たちは、要するに何が言いたかったのか、「思想の整体師」の異名をもつ著者が、噛んで含めるように説き明かします。「そうか、そうだったのか」の連続となること必定です。
同著 「まえがき」
おそらく「構造の哲学」は「構造主義」とちょっとだけ似ているところもあるような気もするけど、やはり趣を異にする気もする。が、そういう、違いについて思いを馳せてみるのも、また愉し。
・ハンナ・アーレント『人間の条件』(筑摩書房)

ユダヤ人であるがゆえ、ナチの台頭するドイツを脱出し、アメリカに亡命した哲学者、ハンナ=アーレントの主著のひとつ。
人間の行動を、労働(labor)、仕事(work)、活動(action)という三つの様式で考察する、600頁におよぶ重厚長大な一冊。
棚田さんがAIの御神託に預かり、渋谷のSPBSで運命的な購入を果たす。没後50周年というところで、2025年7月に改版されて出版ホヤホヤな1冊らしい。
彼が読み終えたら、解説を乞いたいところの1冊。
・沢木耕太郎『暦のしずく』(朝日新聞出版)

「旅行者のバイブル」と謳われる『深夜特急』の著者、沢木耕太郎の新作。ノン・フィクションを基調とした作家なれど、たまに物語を書いていたかと。が、時代物は初めてだったかと。(ちなみに、『深夜特急』は、比較的そう言う人は多いと思うけれど、若かりし日に、私も狂ったように読みました)
本書は「馬場文耕」という講釈師が主人公。沢木は、「打ち首獄門」に処された唯一の文芸人であるこの主人公に着目。日本初の「ルポ・ライター」だったのでは、と見立てつつ、物語を紡ぎ始める。この時点で「読みたい」と思わされてしまった。
江戸当時の町並みを想像しながら現代の東京を歩きつつ、文耕という情報は少ないが実在した人物を、英雄譚の主人公に仕立ててしまう、著者の筆力は凄いと思う。ルポルタージュを生業にしてきたが故に培われた力だと思う。読んでいて、著者の紡ぎ出す「文耕」にすっかり魅入られてしまった。
飄々として、情に厚く、義理堅く、見識深く、剣の腕も立つ。周囲の人々は、否応無しに、この人物に魅了される。著者は、この人に、存分に、自身の想いを託したのだろうな、と思う。それこそ、愉しむように。存外、「耕」の字に、某かの縁を感じたのかも知れない。これは私の妄想。
して、主人公たる、その文耕。所謂、「打ち首獄門」の刑に処される運命にあることが、話の冒頭から宣言されていて、その史実として避け難い、運命に向かって話は転がって行くだけに、緊張感を伴い続ける。そして、登場する人物が皆、文耕を慕いつつ、各々が、文耕に負けない様な魅力を放ちつつ、物語に華を添えて行く。
話が進むにつれ、文耕が、聞きかじりの噂話ではなく、情報の「出所と中身」を自身でしっかり押さえた話を語る事に、「講釈師」という生業の真髄を見いだして行く、その過程がまた面白い。
何かと、嘘八百の情報が飛び交う昨今。情報を発信する側に対しても、受信する側に対しても、この「物語」を通じて、「一言申し伝えたい」という、筆者の矜持の様なもの感じたのは、これまた私の妄想かも知れない。
560ページと厚みがあったが、さらっと読めてしまった。
もしも、話中に登場した謎の浪人「里見樹一郎」を主人公とした続編が書かれたのであれば、是非とも読みたいと思う次第です。
後は、「文耕」の「シックスレイヤー」はどの様な在り方だったのか、そこにも、改めて、思いを馳せてみたい。
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